大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)5584号 判決 1961年5月18日
判 決
京都市北区大宮大門町二八番地
原告
西藤武四郎
泉大津市戎町九〇番地
被告
奥川与三郎
右訴訟代理人弁護士
阿部幸作
同
越智譲
主文
被告は、原告に対し、金一〇三、五〇〇円及びこれに対する昭和三六年三月一九日から完済まで年六分の金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は、金二〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
原告は、主文第一、二項と同旨の判決、ならびに、担保を条件とする仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、原告は、昭和三三年二月一四日頃、訴外山田嘉三郎から、被告振出にかかる、金額を金一〇三、五〇〇円、満期を同年六月八日、振出地及び支払地を大阪市、支払場所を株式会社日本勧業銀行難波支店、振出日及び受取人を白地とした約束手形一通を、交付により譲渡を受けたので、満期前に受取人を原告と、同三六年三月八日、振出日を同三三年二月一四日と順次補充したところ、被告は右手形金を支払わないから、ここに、被告に対し、右手形金、及び、これに対する右振出日補充の事実を記載した準備書面が被告に送達された日の翌日たる同三六年三月一九日から完済まで、商法所定年六分の遅延損害金の支払を求める。」と述べ、被告の抗弁に対し、
「(一) 抗弁(一)の事実を否認する。
(二) 原告は、訴外山田から、本件手形外被告主張の二通の手形の割引を依頼されたので、同年二月一八日、これが割引をし、手形金合計額から割引料五三、五〇〇円を控除した残額五〇〇、〇〇〇円を同訴外人に交付したものである。
(三) 本件手形割引当時、原告は、訴外株式会社丸嘉に対し、金一、〇八八、五〇〇円の売掛代金債権を有していたが、同年三月六日頃、同訴外会社から反物一七六反を、その価額を金五九一、五四〇円と定めて代物弁済を受け、更に、(二)に述べた一たん割引料として控除した金員をも右債権の内入弁済金として充当した結果、現在なお金四四三、四六〇円の売掛代金債権を有しているものである。」と述べ、証拠として、(省略)
被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の事実はすべて認めるが、次に述べる理由により、被告は原告に対し本件手形金を支払う義務がない。即ち、
(一) 被告は昭和三三年二月二五日頃、訴外山田嘉三郎に対し、割引を依頼して本件手形を交付したところ、同訴外人は被告に対しこれが割引をしないまま、同年三月初頃、本件手形を原告に交付したもので、原告は、右事実を知りながら被告を害するため本件手形を取得したものである。
(二) 訴外山田は訴外株引会社丸嘉の代表取締役として、同訴外会社の金策のため、原告に対し、訴外水谷某振出の金額三〇〇、〇〇〇円、訴外京龍商店振出の金額一五万円の各約束手形、及び、本件手形の割引を依頼してこれを交付したものであるところ、原告はこれが割引をしないものである。もつとも、その頃、右訴外会社が原告から金五〇〇、〇〇〇円を、弁済期を同月末日と定め、右弁済期に弁済できないときは、右金額相当の商品を引渡す約束で借受けたことはあるが、右借受金は本件手形の割引となんの関係もない。
(三) 仮に、右借受金が本件手形外二通の手形割引のため交付されたものであるとしても、同月末現在における右訴外会社の原告に対して負担していた債務は、右借受金を含めて金一、二〇〇、〇〇〇円であつたところ、その頃原告は、訴外会社を訪ずれ、原価金一、五〇〇、〇〇〇円以上に相当する在庫商品(西陣織物御召約三〇〇反)を引上げていつたから、これにより同訴外会社の原告に対する債務はすべて消滅したものである。」と述べ、証拠として、(省略)
理由
一、原告主張の請求原因事実は、被告の自白するところである。
二、(一) 被告は、本件手形は割引依頼手形として被告から訴外山田嘉三郎に交付されたところ、同訴外人は割引をしないままこれを原告に交付し、原告は右事実をよく知りながら被告を害する意思をもつて本件手形を取得したと主張し、(証拠省略)被告が右訴外人に対し割引を依頼して本件手形を交付したもので、未だ割引金の交付を受けていないことが認められるけれども、割引依頼手形にして未だ割引がなされていない手形を被依頼者から譲渡を受ける者が、譲渡を受ける際、右事実を知つていたということだけで直ちに手形振出人を害する意思をもつて手形を取得したということができない。のみならず、原告知情の点については、(中略)これを認めるに足る証拠がない。却つて、(証拠省略)原告は前示事実を知らなかつたことが認められるから、被告の右抗弁は採用できない。
(二) 被告は、原告が訴外山田から割引依頼を受けて本件手形を取得しながら、未だこれが割引をしていないのみならず、仮に、原告と右訴外人間に本件手形譲渡について原因関係があつたとしても、右原因関係たる債務は、右訴外人の経営する訴外株式会社丸嘉のした代物弁済によつて消滅したから、被告には本件手形金を支払う義務がないと主張するところ、手形が受取人から第三者に裏書された場合に、受取人と被裏書人との間の手形譲渡についての原因関係の欠除、ないし、その消滅の事実は、受取人のみがこれを抗弁として被裏書人に対抗し得るに過ぎず、振出人は、右事実をもつて被裏書人に対抗し得ないものと解すべく、このことは、手形が受取人を白地として振出され、受取人がこれを白地のまま交付により第三者に譲渡し、第三者が受取人として自己の氏名を補充した場合についても同様であるから、被告の右抗弁はそれ自体失当といわねばならない。のみならず、右抗弁事実の存在については、(中略)これを認めるに足る証拠がない。却つて、(証拠省略)原告が、同三三年二月一八日頃、本件手形外二通の手形(金額合計金五五三、五〇〇円)の割引金五〇〇、〇〇〇円を訴外山田に支払つていること、本件手形割引当時、原告が訴外株式会社丸嘉に対し、金一、〇八八、五〇〇円の売掛代金債権を有していたが、同年三月初め頃、同訴外会社から価額約五九万余円の反物約一七六反を代物弁済として受領したが、なお約金四〇数万円の売掛代金残債権を有しており、これは本件手形と無関係であることが認められるところであるから、被告の右抗弁もまた採用できない。
三、してみると、被告は、原告に対し、本件手形金一〇三、五〇〇円、及び、これに対する手形補充完結の旨記載した準備書面(同三六年三月八日附)が被告に到達した日の翌日であることが記録上明かな同三六年三月一九日から完済まで、商法所定年六分の遅延損害金の支払う義務があるわけであるから、これが支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して、主文の通り判決する。
大阪地方裁判所第二八民事部
裁判官 下 出 義 明